「子供の自殺」という教育問題は解決可能か?畑恵氏に聞いてみた

最終更新日 2025年3月27日 by edgea

少子高齢化社会という言葉が使われ始めてから、もう23年以上が経過していますが晩婚化とそれにともなう少子化の問題はいまだに解決していません。

今後もこの問題が一朝一夕で解決する可能性が低いことを考えると、少ない子供たちを大切に育てることが大事になります。

しかし残念なことに2019年に発表された調査では、子供の自殺者数は1986年以来最大となったそうです。

子供の数は1986年の時に比べれば大幅に減少している訳ですから、子供が自殺する割合はこの30年で大幅に増加したということになります。

未来ある若者が自殺するということは、政治家や経営者が危惧する労働力不足などよりも、もっと根本的な社会の病理です。

現代において子供の自殺を防ぐことは最も重要な教育問題だと教育者の畑恵氏も警鐘を鳴らしています。

 

若者が自ら命を絶つことを防ぐには?

それでは具体的にどのような施策を行えば、若者が自ら命を絶つことを防ぐことが出来るのでしょうか?

子供が自殺する理由は多岐にわたり、最近では遺書に「特に理由はないけど生きていたくないので死にます」と書き残して死ぬ少女まで現れていますが、全体としては学校や家庭といった日常生活の中で自分の居場所を確保できないことが、死を選ぶ大きな原因となっているようです。

これに対してこれまで学校では生徒たちに生命の大切さを伝える教育によって、死を選ぶことを防ごうとしてきました。

しかし残念ながらこうしたやり方は効果的とは言い難いものがあります。

なぜかといえば自殺する人間にはある一つの共通点が存在するからです。

その共通点とは自己肯定感の低さです、自分の存在や生きていることに対して意味を感じられないのです。

人間というのは良くも悪くも意味や価値といったものにこだわる生き物だと言われています。

これは人が進化し文明を発展させていく過程で必然的に身につけた能力です。

たとえば限られた時間と人手を使って食料を集めようとするならば、誰だってより食料が多い森に入って採集を行おうとするでしょう。

その方がより高い確率で多くの食料を手に入れることができ、生き残れる可能性が高まるからです。

 

自殺をする人の心理について

こう考えると意味や価値を追い求める人間の機能は優秀に思えるかもしれませんが、これには1つ大きな欠陥があります。

それは人が社会というものを意識した時、自分という個人の価値は限りなく0に近づいてしまうのです。

人口が1億人を超える日本では毎日3000人以上の人間が亡くなっています。

その中には偉大な発明をした科学者や、日本中を感動させたアスリート、世界的な企業の経営者なども含まれています。

ですがそんな彼らが亡くなっても私たちの日常は何の支障もなく続いているのが現実です。

現代社会において個人はいくらでも代わりが存在するのです。

このことはまだ知識や経験に乏しい子供でも、漠然と理解しています。

そんな中で生命の大切さについて教師が訴えたところで、子供たちの心には届きません。

あるいはその理屈自体は納得しても、その大切な命に自分が含まれているとは考えられないのです。

 

子供たちに共同体の中で明確な役割を与える

それでは一体どうすればいいのでしょうか?

その答えとしてある専門家は子供たちに共同体の中で明確な役割を与えることを推奨しています。

役割は特別に難しいものである必要はありません。

大切なのは役割を与えた上で、その役目を果たしている子供に対して親や教師といった周囲の大人たちが感謝することです。

誰かの役に立つということは人間の自尊心を保つ上で大きな意味があります。

自殺者の多くに無職の人間が含まれるのは経済的に困窮し将来に希望が見えないということもありますが、それ以上に自分が生きている世界において、何の役に立っていないという事実ですが自尊心を傷つけ生きる意欲を奪っているのです。

逆に言えば家庭であれ学校であれ、学校以外の場所であれ、何らかの役割を果たすようになれば子供は生きる意欲を取り戻すことができます。

親や教師といった大人は問題を抱えている子供に対して、助けてあげるつもりで「嫌ならやらなくていいよ」と言ってしまうことがあります。

こうした行為はプレッシャーに押しつぶされそうになっている子には有効に働く場合もありますが、子供から役割を奪うことでかえって自尊心を傷つけてしまう危険性があり、最善の手とは言えません。

むしろ問題を抱えている子供には積極的に役割を与え、それに感謝することで自尊心を育てていくべきです。

 

まとめ

ここで重要なのは感謝は子供が役割を達成したかどうかではなく、役割を果たそうと挑戦したかどうかで行うべきということです。

上手く出来なければ叱るというやり方では、かえって自尊心を傷つける結果になりかねません。

自殺の根本的な原因は「自分が生きている意味はない」という自己肯定感の不足にあります。

ですがこれは共同体の中で役割を持ち、自尊心を育てれば乗り越えることができる解決可能な問題です。

簡単なことではありませんが、周囲の大人の気配りがあれば子供の自殺は防ぐことができるのです。