最終更新日 2025年8月6日 by edgea
「まさか、自分の家が…」
これは、大きな地震が起きるたびに、多くの人が口にする言葉です。
こんにちは。
建築構造設計士として、耐震診断や補強設計に20年以上携わっている山口拓真と申します。
私自身、神奈川県川崎市で築40年の中古住宅を購入し、家族と暮らしています。
専門家として耐震の重要性は理解していましたが、いざ自分の家となると「まだ大丈夫だろう」という気持ちがどこかにありました。
しかし、近年の能登半島地震の報道に触れ、専門家として、そして一家の主として、自宅の耐震診断と補強工事に踏み切りました。
今回は、その実体験を通じて見えてきた“専門家ですら知らなかった現実”と、これから家を守るすべての方に伝えたい「5つの気づき」について、包み隠さずお話しします。
この記事は、単なるノウハウ解説ではありません。
あなたの、そしてあなたの大切な家族の命と財産を守るための、私からの真剣な手紙です。
地震は防げない、でも倒壊は防げる
被災地で見た現実:助かった家、倒壊した家
私はこれまで、仕事で何度も被災地の調査に赴きました。
そこで目にするのは、残酷なまでに明暗が分かれた街の姿です。
すぐ隣同士の家なのに、一方は無傷で建ち続け、もう一方は跡形もなく倒壊している。
この差は、決して運だけで決まるのではありません。
倒壊した家屋の多くは、古い耐震基準で建てられていたり、適切なメンテナンスがされていなかったりするケースがほとんどです。
地震そのものを防ぐことはできませんが、正しい知識と備えがあれば、家の倒壊は防げるのです。
築年数と倒壊リスクの相関関係
あなたの家は、いつ建てられましたか?
もし1981年(昭和56年)5月31日以前であれば、それは「旧耐震基準」で建てられた家です。
旧耐震基準は、震度5強程度の揺れに耐えることを目標としており、それ以上の大地震は想定されていませんでした。
一方、現在の「新耐震基準」は、震度6強から7の揺れでも倒壊・崩壊しないことを目指して設計されています。
実際に、2024年の能登半島地震でも、旧耐震基準の木造住宅に大きな被害が集中したことが報告されています。
築年数が経過しているということは、それだけで大きなリスクを抱えている可能性があるのです。
自分の家に置き換えて考える重要性
「うちは大きな地震が来ない地域だから大丈夫」
そう思っている方も多いかもしれません。
しかし、日本は地震大国です。
どこに住んでいても、大地震のリスクはゼロではありません。
大切なのは、テレビの向こうの出来事としてではなく、「もし、この地震が自分の街で起きたら?」と我が事に置き換えて考えることです。
その想像力こそが、家族を守るための第一歩となります。
我が家の耐震診断:知らなかった“家の弱点”
診断を依頼したきっかけと準備
我が家も築40年。
旧耐震基準の時代に建てられた木造住宅です。
専門家として知識はありましたが、「紺屋の白袴」とはよく言ったもので、日々の忙しさに紛れて後回しにしていました。
しかし、能登の被害状況を見て、「専門家である自分が行動しないでどうする」と一念発起。
すぐに信頼できる同僚の診断士に依頼しました。
準備したのは、家の建築確認済証と図面一式です。
もし図面がなくても診断は可能ですが、あるとよりスムーズかつ正確な診断ができます。
一般の方が業者を選ぶ際は、長年の実績や専門性をしっかり確認することが何よりも大切です。
例えば、東京や大阪を中心に数多くの実績を持つ株式会社T.D.Sのような専門業者も存在します。
実際に依頼する前には、株式会社T.D.Sの口コミや評判などを参考に、複数の業者を比較検討すると良いでしょう。
プロの目から見た築40年住宅の構造的問題
診断が始まると、次々と“我が家の弱点”が明らかになりました。
まず指摘されたのは、壁の配置バランスの悪さです。
南側に大きな窓が集中しているため、地震の揺れに対して踏ん張るための「耐力壁」が圧倒的に不足していました。
さらに、基礎部分にはひび割れが見つかり、床下を覗くと湿気で木材の一部が腐食している箇所も。
普段の生活では全く気づかない、まさに“見えない危険”でした。
図面にない「見えない危険」の見つけ方
耐震診断は、図面を見るだけでは終わりません。
専門家は、屋根裏や床下に入り、図面には描かれていない柱や梁の接合部の状態、シロアリの被害の有無、雨漏りの形跡などを徹底的にチェックします。
我が家の場合も、図面上は問題ないように見えた柱が、実際には壁の中で筋交い(建物の強度を高める斜めの部材)としっかり接合されていないことが判明しました。
これらは、実際に暮らしているだけでは絶対に分からない、プロの目だからこそ発見できるリスクです。
耐震補強の実際:費用・工期・暮らしへの影響
採用した補強方法と工事の流れ
診断結果を踏まえ、我が家では以下の補強工事を行うことにしました。
- 基礎の補強:ひび割れ部分を樹脂で補修し、鉄筋を追加して強度を高める。
- 壁の補強:耐力壁が不足している箇所に、構造用合板を増し貼りする。
- 接合部の補強:柱と土台、梁などを専用の金物でしっかりと固定する。
工事は、住みながら行える範囲で計画を立て、約2週間で完了しました。
もちろん、工事中は多少の騒音や埃はありましたが、職人さんが養生などを丁寧に行ってくれたおかげで、想像していたよりもストレスなく過ごせました。
費用対効果の高い補強計画とは?
耐震補強は、やみくもにお金をかければ良いというものではありません。
大切なのは、家の弱点を正確に把握し、最小限のコストで最大限の効果を得ることです。
例えば、家全体の壁をすべて補強するのではなく、バランスを考えて最も効果的な箇所に絞って補強する。
屋根を重い瓦から軽い金属屋根に葺き替えるだけでも、家の重心が下がり、揺れに対する安定性が大きく向上します。
私の家でも、診断士と相談し、すべての弱点を100点満点にするのではなく、まずは倒壊を防ぐレベル(評点1.0以上)を目標に、優先順位をつけて工事内容を決めました。
これにより、予算内で最も効果的な補強が実現できたのです。
工事中の住み心地と家族の反応
工事が始まる前、妻は「家の中がめちゃくちゃになるんじゃないか」「費用が心配」と不安そうでした。
しかし、工事が終わり、壁の中に頑丈な合板や金物が取り付けられていく様子を見ると、「これで安心だね」と笑顔を見せてくれました。
目に見える変化は少ないですが、「守られている」という安心感は、何物にも代えがたい価値があります。
子どもたちも、工事をきっかけに防災意識が高まったようで、今では家族で避難場所の確認をすることが習慣になりました。
分かった5つの“気づき”
今回の自宅の診断・補強を通じて、専門家として、そして一人の住まい手として、改めて多くのことに気づかされました。
1. 図面だけでは分からない本当のリスク
図面はあくまで設計図です。
経年劣化や施工の状態など、実際に見てみないと分からないリスクが家には潜んでいます。プロの診断を受けることの重要性を痛感しました。
2. 診断結果は「不安」ではなく「判断材料」
「悪い結果が出たら怖い」と診断をためらう気持ちはよく分かります。
しかし、診断結果は家族を不安にさせるものではなく、家を守るための最適な方法を考えるための“判断材料”です。
3. 補助金や制度を活用すれば、意外と手が届く
耐震診断や補強工事には、多くの自治体で補助金制度が用意されています。
我が家も川崎市の補助金を活用し、費用の負担を大幅に軽減できました。まずは自治体の窓口に相談してみることを強くお勧めします。
4. 家族との対話が防災の第一歩
耐震補強は、一人で決められることではありません。
費用や工事中の生活について、家族としっかり話し合うプロセスそのものが、家族全体の防災意識を高めることに繋がります。
5. 「今やるか、後悔するか」の分かれ道
地震は、いつ来るか分かりません。
「いつかやろう」と思っているうちに、その“いつか”が手遅れになってしまう可能性があります。命に関わる問題に、先延ばしは禁物です。
まとめ
専門家でありながら、どこか他人事だった我が家の耐震問題。
しかし、実際に診断・補強を経験した今、心から「やって良かった」と感じています。
この記事を読んでくださっているあなたに、私からお伝えしたい教訓は3つです。
- 「うちは大丈夫」という根拠のない自信が、最も危険です。
- 家の弱点を知ることが、家族を守るための最短ルートです。
- 行動を先延ばしにすれば、必ず後悔する日が来ます。
耐震補強は、決して安い買い物ではありません。
しかし、それは家族の命と、かけがえのない日常を守るための「投資」です。
まずは、お住まいの自治体のホームページを調べる、相談窓口に電話をしてみるなど、“知る”ことから始めてみませんか?
その一歩が、あなたとあなたの大切な人の未来を守る、大きな一歩になるはずです。